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「へえ。ほお。ふうん」
その話を富川彩雲が耳にした時、真っ先に出たのは、優しい笑顔を形作った上での、これ以上ない嘲弄の声だった。
「影猫、ねえ」
「そうなんですよ! 怖いんです! とんでもなく怖くておっかなくて恐ろしくて脅威なんです!」
「顔が近い」
勢いこんで迫る七星苗の顔を、彩雲は両手ではさんで横へねじ向けた。
ぐぎっと変な音がしたが気にしない。何しろ相手は苗だから。
「あ゛~、ほんと、今みんなが一番ホットでホラーな話題なんですよ!」
案の定、首が変な方にねじれても何も変わらず、自分で元に戻して、それまで通り苗は続けた。
「相変わらず独特の言語感覚よねえ。言いたいことはわかるけど」
「わかってくれましたか!」
「あのねえ」
さすがに根負けして、彩雲は真面目に返答する。
「ええと、暗くなってから一人でいると出会ってしまう、その目を見たら引きこまれてしまって二度と帰ってこない、だったっけ」
「そうです! 怖いでしょー、怖いですよね、こわっこわっ、こわこわ、こわっ」
「なにその踊り」
「怖さを追い払うための踊りです!」
「ああ、原始的民族舞踊って、あんたみたいなのが始めたのかもしれないわね」
もちろん、そんな皮肉の通じる苗ではない。
「じゃあ訊くけど、出会ったら帰ってこられないのなら、誰がその話を伝えたわけ?」
「え?」
「誰かが遭遇して、無事に帰ってきたのでないと、その話は広まらないわよね。出会った人がみんないなくなるのなら、行方不明者が出たっていうだけで理由なんかわからないんだから」
「むむむ」
「何がむむむよ、こんなの初歩の初歩じゃないの」
「先輩にはロマンがありません!」
「さっきホラーって言ってたのはどこの誰? 怖さをなくしてあげたってのに、お礼のひとつもないわけ?」
「仕事を思い出したので失礼しますっ!」
『お礼』を言いつけられる気配を察して、即座に苗は保健室を飛び出していった。
「まったく、逃げ足だけは速い……」
本当に、影のよう。言いかけて彩雲は口をつぐんだ。苗が言ったことに影響されるなんて、恥辱のきわみもいいところだ。
「それにしても…………影猫、ねえ」
思春期にはよくある妄想だ。今の時代はそれか、と彩雲は苦笑した。同じレベルで信じこんでいる苗には嘲笑。
夕暮れ時、その日の授業を終え体が疲れているところへ、周囲が暗くなってきて思考力も衰えたタイミングで、何らかの妄想を現実と思いこんで、噂の元が生まれる。それを似たような思考回路を持つ子たちが信じこみ増幅させることによって、学校の怪談あるいは都市伝説の完成だ。
「ま、そういうのが楽しい年頃だからね、あれこれ言っても仕方ないし……」
彩雲は帰り支度を始めた。
日がかげって、もうじき最終下校時刻。今日はもう何も起こらないだろう。
生徒が怪我をして運びこまれてくるたびに、完全な不可抗力でない限り言葉の限りを尽くして顧問や指導者の管理責任を問い本人の不注意や無茶を優雅に罵倒しまくっていたから、今ではよほどの重大事故でない限り、保健室にやってくる生徒はいない。もっとも、ここを利用する生徒が少なければ少ないほどいいのだからと、彩雲は閑古鳥の鳴く保健室の現状をむしろ喜んでいた。
「……あら?」
ふと、気配を感じた。
人か――いや、人ではないような、変な……。
「…………」
一瞬心臓が強く打ったが、彩雲はすぐ冷静に考える。ドアが開いた形跡はない。したがってこの部屋に自分以外の人間はいない。
――そのはずだ。
なのに、誰かがいる気がしてならない。
いや、『何か』だ。人ではない、何か。
影猫。
「そういうものを信じるほど幼かったのかしら、私」
自分で自分を、彩雲は罵倒した。
(でももし、人を捕らえて連れ去ってしまう恐ろしい存在が、本当にいるとしたら?)
「いるのなら……」
心に浮かんだ問いに、彩雲は声を出して返事した。
「まずは、その姿の確認ね。相手がどういう姿形なのかがわからないというのが一番恐怖を誘うのだから。相手の情報がわかれば対処方法も考えることができるのだし」
(そのとおりです。さすが『私』。あなたは自分を誇っていいです)
ふふん、もちろんじゃない。彩雲は心の声の言うままに胸を張った。
そういえば同じ姉妹なのにどうして妹はああも貧乳なのだろう。自分のブラを胸にあててため息をついている姿を見てしまったことがあるが、さすがにそれはからかえず、見たこと自体を秘密にしている。もちろん本気でケンカする時には遠慮なく武器として使うつもりではいるけれど。
(胸、といえば……魅力のみなもとですね。その胸を有効に使うことを、あなたは思いつきます)
「そうだわ」
彩雲はひらめいて、声を出した。
影猫とやらが、女の子を狙うというのなら、つまりはオスであり、人間の女性に対して魅力をおぼえる感性を持ち合わせているということ。
ならば、もし今この室内にそれがひそんでいるのなら――女性の魅力を発揮すれば、罠のエサに引かれて隠れ場所から出てくる間抜けなネズミのように、その姿をあらわすに違いなかった。
「そうよ、それなら……」
彩雲はひとつ息を吸って、気合いを入れた。
「…………ああ、暑い…………」
まず、白衣を脱ぐ。
椅子に体をあずけ、実はかなり短いスカートから伸びる脚を、正面にいるだろう何かに見せつけるように組んだ。
「ふぅ……」
悩ましい吐息をついて、その脚を戻し、だらしなく開く。
短いスカートの裾がぎりぎり隠しているので下着は見えないが、ちょっと視点を下に移してのぞきこめば、間違いなく――。
「はぁ」
また吐息をつき、両脚をぴったり閉じる。
見ている男がいれば、のぞきこもうとした瞬間にそうされて、歯がみしたことだろう。
「さて……誰もいないし……ちょっとだけ……ね」
いかにも、文字通りの『秘め事』だという気配を濃厚ににじませて、彩雲は上着の裾に手をかけた。
大胆に前をはだけ――ブラジャー姿になる。
胸の谷間がくっきりした、すばらしい姿態だ。男ならそこに目をやらずにはいられない。
「はぁ…………すっきりする……もっと……」
彩雲はうっとりまぶたを垂れ下げ、腰を浮かせて、スカートも脱いでしまった。
十代では到底及ばない、最高に熟した大人の女性の、充実した腰つき、ふとももの肉づき、ショーツの食いこむ股間のライン。
見ているのがオスであれば、誘い出され、食いつこうとするのは間違いない最高のものがそこにあらわれた。
(これで、足りるでしょうか?)
心の中に響いたその声に、彩雲は強く反発した。
なによ、これでも足りないっていうのね!?
彩雲自身が、他人の自意識を刺激する物言いを得意とするだけに、彩雲もまた他人のその手の発言には敏感だ。
彩雲は、反発心の促すままに、背中に手をやり、ブラジャーのホックを外した。
カップがずれて乳房が重力に引かれた瞬間に、何かおかしいという思いがよぎったものの、それ以上に強い爽快感にすべて押し流された。
肉体的に解放されたばかりでなく、精神的にも、やるべきことをやり終えたという満足感が生まれる。
「ああ…………」
影猫でもオスでも何でも、見るなら見ろ、むしろ見てほしいという熱い欲望が湧き起こる。
乳首がしこり勃ち、突き出して、誰かが触れるのを待ち望む体勢に。
そしてまた、両脚の間にも、熱がこもり、ふくらんで、どうしようもなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ…………はぁ…………んっ!」
息が乱れ、胸は弾み、違和感は相変わらずあるものの、何がおかしいのかはまったくわからないまま、彩雲は腰を浮かせた。
その豊かな腰から、体を覆う最後の一枚を取り去り――ふとももを大きく開く。
たっぷり肉のついた、透けるように白い太ももの間に、色濃い陰唇と、その内側の鮮やかな色合いがのぞく。
「にゃ~~~♪」
ついに、誘い出されて、『影猫』が姿を現した。
やった! 彩雲は勝利感に酔いしれる。
その『影猫』が、七星苗の姿をしていることも、その苗の表情が普段とまったく違って目はうつろで体に一糸たりともまとっていないことも、全身を包む恍惚感の前ではどうでもいいことだった。
「にゃっ、にゃ、ちゅっ」
『猫』が彩雲の股間に顔を埋め、口づけする。
「はぁんっ!」
強烈な快感が駆け抜け、彩雲はあごをあげて悶えた。
当然だ、自分は噂に勝ち、『影猫』の幻影にも勝ったのだから。
彩雲の体も心も開ききって、苗の姿をした猫がもたらす快感が、脳髄に直接突き刺さってくる。
ざらつく舌が、クリトリスを舐めている。一心不乱に、強く、激しく。
「あぁ、ああ、あ、あ、あ、あ、あっ!」
声が吹き出て、体はこわばり、愛液がみるみるあふれてくる。
強烈な刺激が立て続けにこみあげ、突き上げ、まんこはひくつき、愛液をにじませ、本気汁を垂れ流し……。
(こんなに気持ちいいなら…………いいよね?)
「んっ、ん、ん、あ、あ……!」
心の声に、彩雲は、意味のある言葉を紡げないままうなずいた。
いい。
(あなたは、影猫のものになる)
「なるっ! なりますっ!」
快感が導くままに、彩雲は心から叫んでいた。
連れ去られてもかまわない。いやむしろ連れ去ってほしい。こんなに気持ちいいのなら。生きる意味そのものを満たしてくれる、この快感をずっと得られるのなら。
(まあ、結局はそういうことで、被験者が望む状況になるように導くことしかできないのが催眠というものなんだよね)
(なるほどね)
(先生も、自分が受け入れられるものだから、この気持ちよさを受け入れている。そうでなかったら拒絶しているよ)
(万能に見えて、そうじゃないのね)
(そう見せかけるように手を尽くしているからね)
(その尽くされた手で、私も落とされたということ?)
(嫉妬?)
(先生、きれいだもの。あんたのち○ぽだって、ほらこんなに)
(わ、こら、やめてくれよ、術が乱れる)
声がいくつかしているけれども、快感に酔い、ひたりきっている彩雲にはまったく理解できない。
(では、あなたはこれから、イッてしまいます……5つ数えるたびに、あなたはイッてしまうんです)
数がかぞえられ、彩雲の性感は無慈悲に、こらえようもなく高まった。
「ひあああああ!」
叫ぶ耳に、さらなるカウントが告げられ、体が再び絶頂へと駆け上がる。
「3……4…………5!」
途中から、快感を告げる声が、苗のものに変わったような気もするが、考えることができない。
尻が跳ね上がり、股間がひくつき、愛液が噴き出し、小便すら漏らして、彩雲は途切れることのない快感に踊り狂い続けた……。
隔週(?)木曜20時からニコニコチャンネルで放送中の
「頑宣ch」。
本日20日の放送に、広報担当の太高がお邪魔させていただきます。
頑宣chのページはこちら!Astilbe×arendsii(アスチルベ・アレンジー)の御二方もご出演されます。
放送時間に見れないよーという方はタイムシフトで。
見れるよーという方は、是非ご覧くださいね!