カウントダウン2日前SSとなります!
実はこちら、さよりさんの絵を見てからおくとぱすさんが文章を書いていく形式でやっていますが、今、旅の途中で、ネット環境が安定していないとのことです。
1日前も、届き次第公開いたします。
ちなみに、送っていただいたお土産の一部画像を!
育ち過ぎたひよこ。
ひよこ、残酷画像
とてもおいしくいただきました。
ということで、以下、カウントダウンSS 2日前「炎乃火編」となります。
「炎乃火さん、お願いします」
「ふざけんな! やだったらやだ!」
「だめですか?」
上目遣いで、神楽一紗がおねだりしてくる。
「そんなツラしてもだめだ! そんなツラしてるから余計にだめだ!」
穂波炎乃火は眉を精一杯つり上げてすごんだ。
そうやって自分を鼓舞しないと、一紗のあまりのかわいらしさに、胸がときめき顔が笑み崩れ、この美少年を抱きしめて骨が砕けるまで可愛がってしまいそうになるのだ。
実際炎乃火はそれで何度も、ペットに嫌われてしまっていた。親が等身大のぬいぐるみを買い与えてくれるようになって、被害に遭う動物はいなくなったが、今度は強烈なハグに縫い目が破れ中身が噴き出す凄惨な状況が何度か繰り返されることになった。我が娘の尋常ではない筋力に気がついた両親がスポーツを勧め、その世界で炎乃火がみるみる頭角を現してゆくことになったのだが――残念ながら親の期待に添うことはできず、ある事情でスポーツの世界と縁を切った炎乃火はこうして、校舎隅のがらんとした部室で、女の子と見まがうばかりの美少年と向かい合っているわけだが――。
「じゃあ、どうすれば、してくれるんですか?」
「何をやってもだめだ!」
「炎乃火さんを、気持ちよくしても?」
「そういう考えが気に入らねえんだよ! エッチに持ちこめば何でも言うこときかせられるって、思い上がったツラしてる! ちょっと上手だからって、偉そうにすんな!」
「あ、上手だって認めてくれてる。嬉しいな」
「う、うるせえ!」
炎乃火は、その名の通り顔面を燃え上がらせた。
「それとこれとは話が別だ! 大体、その要求のんでも、お前が楽しいだけで、オレに何のメリットもねえじゃねえか!」
「僕を楽しませてくれるの、楽しくないんですか?」
「他のことならいい! でもなんだそれは! 何でオレがそんなこと!」
「いやあ、ほらみんなが噂してたもんで。放課後、暗くなったら現れる影猫ってやつ。それで思いついたんですけどね」
「そんな理由で、お前……」
炎乃火の血液はもはや沸騰寸前だ。それが弾ける時、線の細い一紗は比喩ではなく文字通り宙を舞うことになるだろう。
「人を裸にして、四つん這いでニャーと鳴かそうってか!」
しかし相手はしれっとしたままだった。
むしろ炎乃火の激怒の形相を見て、嬉しそうに目尻をゆるめた。
「くっ……!」
可愛い。問答無用で可愛いのだ、この神楽一紗というやつは。
炎乃火は自分の顔面をかきむしりたい衝動にかられる。言うとおりにしてやりたい気分と、反発したい気分とがせめぎあっている。そのこと自体が面白くない。確かに自分はこいつが好きだ。可愛い。いつか歴代のぬいぐるみのように弾けさせてしまうかもしれない予感がこのところ強くなっている。それを本能的に察しているのかこいつも最近後ろから責めてくることが多く――ってそうじゃなく!
「だめなもんはだめだ!」
「どうしても?」
「どうしても!」
そこでふと、炎乃火はいやな予感にかられる。
「そういやお前、前に何か変なの練習してたな……催眠術、だっけか」
「ええ。おぼえていたんですね」
「人の記憶力を何だと思ってやがる。うちは確かに親が医者で金持ちだけど、ちゃんと試験受かって入学してるんだぞ」
「最初から疑ってませんでしたよ」
「そうか? 何度か、どうしてこの人うちに入学できたんだろ、ってぇツラしてたことあるぞてめえ」
「気のせいじゃないですか。とりあえずリラックスしましょう」
「おっとその手にははまらねえ。催眠術かけて人をネコにしようってか? 誰がそんなことさせるかよ。大体催眠術なんかオレは信じてねーっての」
「そうみたいですね。そういえば炎乃火さん、さっきから僕の手の動き、視界に入れていましたよね?」
「は? そりゃ、向かい合ってんだから、当然だろ」
「ですよね。じゃあ指が鳴ると目が閉じます」
「は?」
パチッ。
一紗のしなやかな指が、鋭い音を立てた。
途端に炎乃火のまぶたは閉じた。まばたきと同じように、意識されることもなく。
そのまま、心地よい闇の中へ炎乃火は沈みこんでいく。豪奢な髪が揺れ首が傾き、組んでいた腕がだらりとぶら下がる。
「大好きな炎乃火さん。この声は心の深い部分に気持ちよく響きます。次に目を覚ました時、あなたは僕の言うとおりにしたくてたまらなくなります。僕の言うとおりにすると、とっても嬉しい。とっても幸せ。その後に僕が甘えてくると、そのままイッてしまうくらいにすごい幸せを感じることができますよ…………では目を覚まします。いま心に話しかけられたことは何もおぼえていません。指が鳴ると目が開きます」
再び、スナップ音が鋭く鳴った。
「ん?」
すぐに炎乃火の目は開き、大きく何度かまばたきしながら無意識のうちに姿勢を戻す。今の中断はまったく意識されていない。
言葉による暗示ではなく、手や体の動きだけで相手を催眠誘導する、神楽一紗の『ひとき舞』――炎乃火はその術中に深くはまっている。もちろん自分ではまったく自覚なく。
「本当に、お願いします。見てみたいんです。炎乃火さんの可愛いところ」
「お前なあ……」
拒む炎乃火の声音には、さっきまでの迫力はもうなかった。
「炎乃火さんが可愛いのは知ってますけど、もっと可愛い格好、可愛いポーズ、可愛い声と顔、見てみたい。そうすればもっと炎乃火さんのこと好きになります。お願いします」
「あのなあ……なんだよそれ、人の四つん這いポーズみたいなんて、ヘンタイじゃんかよ……」
炎乃火は顔を赤らめ、もじもじする。
さっきまでは同じことを言われても怒りしか湧いてこなかったのに、今は、甘い気持ちがふくらむ。こんなに望んでいるのなら、少しくらい見せてやってもいいんじゃないか。きっと嬉しそうにするだろう。喜んでくれるだろう……こいつが喜んでくれると、オレだって嬉しい……炎乃火の心中の天秤は、どんどん傾いてゆく。
「炎乃火さん」
「あーもう、わかった、わーったから!」
炎乃火は捨て鉢に言うと、椅子から立ち上がった。
「……そんなに目ぇキラキラさせてんじゃねえよ、恥ずかしいだろうが」
憎まれ口をききながら、制服に手をかける。
もう、肉体関係は結んでいる。お互いの体のすべてを見て、見せて、触れあって、知り尽くしている。それでもやはり、恥ずかしいものは恥ずかしく、服をはだける炎乃火の胸は高鳴り、肌がじっとり汗に濡れる。
上着を脱ぎ、スカートも下ろした。
背丈は一紗より上で、アンダーはともかく胸囲そのものならこれも一紗に勝り、そして恐らく体重は一紗よりあり、そのくせウェストだけは男の一紗より細いだろう、見事なプロポーションである。
「…………♪」
一紗が目を輝かせる。くそったれ、何でそんなに嬉しそうなんだ、もう何度も見てるじゃねえかと炎乃火は毒づくが、口に出すほど力強い意志にならなかった。
そして、靴と靴下も脱いで、床に裸の膝をつく。
「こ……こうか……?」
両手もついた、四つん這い。
脚が長いので、尻の位置は高くなり、立っている一紗の位置からだと、尻から腰、背中への素晴らしい曲面が丸見えだ。
「そうです、そして、手をこうして、可愛らしく、『にゃーん♪』」
「ふっ、ふざけんな、なんでそこまで!」
「やってくれないと完成しないじゃないですか。炎乃火さんの可愛いとこ、満喫させてくださいよ」
「馬鹿野郎…………この落とし前、つけてもらうからな、おぼえてろよ……」
ぶつぶつ言いながらも、炎乃火は言われた通りに片手を、指を丸めて持ち上げ、それっぽいポーズを取った。
「自然な笑顔ができますよ。はい、にゃーん♪」
「にゃ~~~ん♪」
自分でも信じられないほどに、媚びきった笑みと上ずった可愛い声が出た。その一瞬だけは、なぜか炎乃火は心の底から可愛らしいネコとして振る舞うことができていた。
一紗の目が輝く。最高の喜びを得た顔。
それを確認してから、炎乃火は耳まで真っ赤になった。
「くっ、くうっ……!」
「最高です、炎乃火さん」
一紗がかがみこんで、なだめるようにその肩に手を置いた。
「……本当に……最高です、あなたは……」
一紗の声音に、ぞっとする気配が混じった。
彼が欲情したのを、炎乃火は肌で感じ取る。
炎乃火もまた、鳥肌を立て、股間にぞわっと来る感覚をおぼえた。
一紗がかがんでいても、やはり炎乃火は、いつも見下ろす相手を見上げるかたちで――。
見下ろす視線に、強い意志が――強く淫らな意志がこめられている。
触れられる手からも熱が入りこんでくる。
される。これから、いやらしいこと、気持ちいいこと、自分がこれまで思っていた自分と違うものにされ、乱れ、泣き叫び、完全に開ききった無防備な状態にされる行為が始まる。
「ま、待て……待てよ……」
「何を待つんですか、ホノカ?」
一紗のものいいは、もう完全に、彼女を自分の所有物、ペットとみなした上でのものだった。
それに腹立たしさをおぼえつつ、両脚の間に狂おしいほどの熱が芽生え、はっきりとその部分が彼を求め始めた。
――しかし、その時。
「あっ……!」
押し殺した、強い声が一紗の口から漏れた。
その手が冷たくなり、視線が炎乃火から離れる。
「どうし――」「シッ」
聞いたことのない迫力をこめて、一紗は炎乃火を遮る。
そして、指を立てて黙るように――ではなく、炎乃火の目の前で、手を左右に動かした。
その動きをいぶかしむ思う間もなく、一紗が強く言ってくる。
「動かないで」
押し殺した声で、耳に流しこまれた。
「猫です。本物が、出ました」
「な……!?」
――影猫。
クラスメートとまともな交流のない炎乃火でも、ちらっと耳に入れてはいた。夕暮れ時に影の中から現れ、見てしまった者を連れ去ってしまうという巨大な獣。
それが、この夕暮れの部室に、出現したというのか。
動くなと言われたので、炎乃火は振り向くこともできない。
一紗の様子から、並々ならぬ存在だとわかる。恐怖が芽生える。背後、自分の尻の向こうにいる相手の姿を肌で感じる。影から出てくる、闇でできた、巨大な猫。口は耳まで裂け、目は赤く、残忍な光を宿している。炎乃火の体はこわばり、自分が限りなく小さくなる。目の前の相手にすがりつくことしか考えられなくなる。
「ひ……!」
「大丈夫、動かないでいれば――炎乃火さんのおま○こに、入りこんでくるだけですから」
「え……?」
理解しかねる言葉だが、一紗の言うことなら、その通りなのだった。
「ほら、来た……動かないで! 熱くなる、すごく気持ちよくなるけど、動いちゃいけない……動いたら食われてしまうから!」
「ひっ!」
恐怖に支配され、炎乃火の全身が硬直し――その股間に、後ろから、異物が侵入してきた。
まだパンツははいたままなのに、と思ったが、相手は影であり妖怪なのだから不思議はない。それよりもその感覚、途方もない――快感!
「ふああああああっ!?」
一紗に肩をつかまれたまま、炎乃火は快美の悲鳴をあげた。好きな相手が目の前にいるのに、どうすることもできなかった。彼が入ってくる時よりもさらに熱く大きな快感だった。
「おおお! おああああ! あひゃああああ!」
相手が人間ではない以上、快感も人間のそれではなかった。一瞬で炎乃火は達して、さらにイキ、イッて、絶え間なくオーガズムが続く状態に陥った。理性は蒸発し快感だけになって、目の焦点を失ったまま、股間をぐしょ濡れにしつつ炎乃火は自分から激しく腰を揺り動かした。
「炎乃火さん、あなたは猫に支配されてしまった! あなたの中に、あなたじゃない猫が入りこんで、あなたを完全に支配した!」
声が脳裡に響く。意味は理解できない、だがそうなったことだけはわかる。経験したことのない快感の中で、炎乃火は影猫となった。闇にひそみ、女の子を襲う怪物に。
「……にゃぁ」
低く濁った声で、炎乃火はうめいた。
体に食いこむ布きれが邪魔だった。獣にこんなものは必要ない。炎乃火、いや『影猫』は自分でそれを引きむしる。乳房があらわになり濡れた股間が丸出しになると、爽快感に自然と背が伸びる。
「な~~~~ご」
さらに低くうめくと――きらんと、『影猫』の目が光った。
目の前に、獲物がいる。
女の子ではない。だが女の子と見まがうような美貌と、細くうまそうな肢体の持ち主。ならば女の子と同じだ。
「よし、うまくいった。変わり種もたまには面白いよね。じゃあいいかい、影猫さん。この廊下を出た先に、可愛い女の子がいるから、あなたは彼女を――え、え!?」
何か言おうとした、ニヤニヤしている美少年を、『影猫』は容赦なく押し倒した。
慌てる口を手の平でふさぐ。ああ、美味そうだ。押し倒しただけでよだれが湧きま○こが濡れる。食いつき、舌を捕らえて舐め回した。
「んーーー!」
もがき、悶える様が実にいい。
体をまさぐり、服を破き、凌辱の限りを尽くす。口をふさいだまま首筋に吸いつき、肩に噛みつき、素肌に体を重ね、突き出ている余分な突起を自分の中に入れる。途方もなく気持ちいい。
「ああ……!」
そうだ、好きだ、この生き物、こいつが、大好きだ!
『影猫』は快感と情熱のありったけをこめて『獲物』に絡みついた。
「さ、催眠が解け――ぐぎゃっ!」
変な声を漏らして、獲物が動かなくなった。
その体を炎乃火はさらに抱きしめ、愛し続けた。かつて大好きなぬいぐるみをそうしたように。
――神楽一紗入院というニュースが、その夜から翌日にかけて、八曜学園を駆け巡った。
「大丈夫か、暗い中一人でいちゃいけねえよ、お前細っこいし弱っちいんだからよ。マジック研の先輩も心配してたぜ。退院したら、これからはずっとオレがついててやるからよ、な?」
見舞いに来た穂波炎乃火は、涙を浮かべつつ気丈に言葉を重ね、心からの笑みを作ってみせた。
一紗の表情は、包帯に隠されて見えなかった。